秘密の多い私達。
その2
私の恨めしい視線に相手は目をそらし。
「あー……、そうだな。これはどうかな」
「良いんじゃないですか」
「試着してみてほしい」
「……」
まだ怒ってますアピールでブスっとしている私。
「お願い」
なのに耳元でそんな優しく甘く言われると無下にも出来ず。
やや顔を赤らめつつ渡されたワンピースを試着してみる。
サイズは言ってないのにぴったり。
スカート丈も短すぎず長くもなく。なるほどこういうのが趣味。
「どうですか社長」
「うん。良いね」
「私も好きですよこういうタイプ。使い勝手が良さそう」
「決まり。でいいかな」
「はい」
脱いでそれとなく値札を見ると12万と書いてあった。
今後着る時に考えてしまって気後れしそうだから見なかったことにして。
こっちの買い物も無事に平和に終える。
「店員さんこっちを興味津々に見てましたね。
私達がどういう関係なのか後で話してそう」
「そうだった?きちんと見てなかったよ」
「何処でも似たような感じでもう慣れちゃったけど」
普通は男女が一緒に買い物なんて恋人と思われるのかもしれないけど。
年齢が離れているし落ち着いた大人な社長の隣に私が居るのも不釣り合い。
良くて兄妹、悪くて不倫。直接言われた事はないけど聞こえた事はある。
はい皆さんハズレ。
極めつけはお店で一緒に鏡に写った時のスタイルや顔面格差。
出かける度に何も言われてないのに打ちのめされた気がして。
あれは本当に涙が出そうになる瞬間。
複雑な事情はあれど叔父なんだから同じ成分あってもいいのにな。
「どうかした?」
「あっと。その。お昼の場所とかその後とか……」
「昼食の店は予約をしてある。それからは君のご機嫌しだいかな」
「風呂掃除してないですし」
「すぐ帰る?」
「せっかくの休日だしゆっくり帰りましょう」
後部座席には日用品、洋服、本。車の高級な雰囲気や
運転手のエリートなルックスと似つかわしくない。
けど、私が来るまでずっと自分で買い物をして掃除をして。
家政婦さんは雇ったことがないらしい。
この容姿で掃除も料理も出来るとか。何でも出来る系めっ。
「まだ怒ってるのかな。目がつり上がったまま戻らないね」
「お腹が空いているだけですから」
「……、そう、なの?」
予約してくれていたお店に到着してランチに選んだパスタセット。
勝手なイライラも食べている間に忘れるのだから私は単純。
「……犯人は女ですよきっと」
「え?何の話し?」
パスタをほうばって咀嚼し終わったくらいで言う。
スマホを眺めていた相手は不思議そうにこちらを見た。
「ほら。犯罪で毒を使うのは女が多いって」
「あの場に居た女性は当人の他は君だけなんだが。
それは自白ということでいいのかな?」
「……そうでしたっけ?」
パニック状態であんまり覚えてない。けど、たしかにそうかも。
「まあ、それは冗談として。私が入ったときには既に
彼女は件のお茶を口に入れていた時だった。
入り口に1人。窓際に3人。廊下から8名ほど入ろうと
歩いてくる社員が居た。それから3秒ほどで彼女が突然
苦しそうにして倒れた」
「相変わらず凄い記憶力。犯人も分かったりして」
「いや、あの場面だけを思い返しても何も分からないよ」
「もし置いてあった訳じゃないなら誰かから渡されたのかも。
そうなら彼女と話が出来るようになったら分かりますね」
「そう簡単なら良いのだけどね」
確かにそんな簡単に話が終わったら変かもしれない。けど。
状況は分かるだろうから皆がコソコソしてる犯人探しは捗る。
そういう私も結局ここで話題にしている訳だけど。
「私は雑用であっちこっち行ってて人の顔までは見てなくって。
あの女性も何処の部署の誰かさっぱり」
「第1営業部の係長だよ。主力企画も幾つか担当していた有能な女性」
「有能だからライバルにやられたとか」
「社内でも競争はあるだろうし水面下での衝突はあっただろうけど。
あまり角を立てるタイプの人間には見えなかったな」
「うーん」
「パスタが伸びるよ」
人が毒を盛られ倒れる事件が起こってその近くに居たのに。
私の視線からは何も見えてこない。何の記憶も思い起こせない。
ただ文句をたれて印刷したというだけ。お茶を運んできただけ。
探偵のようにすらすらっと事件解決!には至らない。
やっぱり物語みたいにはいかないか。