僕惚れ①『つべこべ言わずに僕に惚れろよ』
 帰省してきてからこっち、毎日高校が終わる頃合いを見計らって彼女の家に通っているのだが、僕の来訪を予期して避けているのか、葵咲(きさき)ちゃんが在宅していた試しがない。

 帰省後3日も経ったのに、僕は未だに彼女を捕まえられていないのだ!

 さすがに不発がこうも続くと、連日のように(おとな)う僕を、葵咲ちゃんのお母さんやお婆ちゃんが、心の底から気遣ってくれるのが分かる。

「ごめんね、理人(りひと)くん。夜に来てくれたらちゃんといるんだけど」

 見かねたお母さんがそう提案してくれたが、将来のことを考えるとここで株を下げるわけにはいかない。はい、分かりました!と若い女の子の家を、夜間平気で訪問するような男という印象を与えるのは愚の骨頂だ。かといって、不在時の訪問が続くのが申し訳ないのもまた事実。

 僕は作戦を変え、彼女の通う高校付近で待ち伏せすることにした。もちろん、不審者に思われるのは得策ではないので、彼女が帰宅する際、必ず通るであろう道を選んでそこに(ひそ)むことにした。

 その甲斐あって、夏休みスタート四日目にしてやっと! 僕は葵咲ちゃんの確保――捕獲?――に成功した。
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