僕惚れ①『つべこべ言わずに僕に惚れろよ』
 でも、そんなことよりも信じられないのは、今のこの状況だ。

 僕の横を、まさか葵咲(きさき)ちゃんが、〝デート〟と言う名目で歩いてくれる日がくるなんて。

 そう考えたら、思わず顔が緩みそうになる。

(夢じゃないよね?)

 何となく不安になって、視線を、すぐ傍の葵咲ちゃんに移す。

 今日の彼女は、フリルスリーブが可愛い5分丈袖のオフショルダーワンピースを着ていた。色は、いつも白っぽい服装が多い彼女にしては珍しく、鮮やかなライトコーラルで、足元にはゴールドのラメ入りのヒールを履いていた。手には、シルバーの小さなハンドバッグ。

 大学で出会うときには中に大学ノートや本などが沢山入った、帆布(ハンプ)の大きめなトートバッグが主流だったから、とても新鮮で可愛いな、と思った。

 髪も、ゆるふわな印象のサイドアップにしてあって、後れ毛が首筋にかかるのが、女の子らしくて凄くいい。

 休日の彼女はいつもこんな感じなんだろうか。そう考えたら、大学以外の場所でも、もっともっと彼女を見たいな、と思った。

「これから、どうしよう?」

 時計を見ると、まだ十四時にもなっていない。

「とりあえず、一旦うちの実家に停めてある車を取りに行こうか」

 その時に、うちの両親にも彼女のことを恋愛対象として見ている旨を話そう。丸山家のみんなの反応を思い起こすと、うちのほうも多分、言うまでもないことなんだろうけど……一応。

 そこをクリアしないと、彼女は前に進めないのだろうし。

「いいかな?」

 そう問いかけると、葵咲ちゃんははにかんで、「うん」と言ってくれた。
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