僕惚れ①『つべこべ言わずに僕に惚れろよ』
「上がって」

 玄関先で立ち止まってしまっている彼女を促すように奥に誘うと、僕はとりあえずエアコンのスイッチを入れた。

 最上階というのはとかく熱がこもりやすいもので――。日中閉め切っていた室内はそれなりに熱気がこもっていた。

「ごめん、ちょっと暑いね」

 声をかけながら、リビングのソファに彼女を導く。

「何か飲む? っていってもお茶と珈琲と紅茶くらいしかないんだけど」

 カウンターキッチンの背面に置いた冷蔵庫を覗きながら声をかける。

「お、お茶で……お願いしますっ」

(何故に敬語!?)

 耳慣れない葵咲(きさき)ちゃんの口調から、彼女のソワソワした気持ちが伝わってきて、僕まで動きがぎこちなくなってしまった。

「ど、どうぞ」

 葵咲ちゃんが座るソファ前のガラステーブルに、麦茶の入ったグラスをふたつ置く。コースターなんて洒落たもの、持っていないのでそのまま置いたら、ガラスとガラスが触れ合う硬質な音がして、それがまた何だか緊迫感を加速させる。

(落ちつけ、僕……)
 彼女より五つも年上なんだ。しっかりせねば。

 というか……この()に及んで何でこんなに気持ちが張り詰めてしまっているんだろう。

 ちゃっかり葵咲ちゃんのすぐ横に腰掛けながら、何だか僕まで心が落ち着かない。

 ふと葵咲ちゃんの方を盗み見ると、ギュッとハンドバッグを握りしめる手が見えた。指先が白くなるほどきつく力を入れているのが分かって、逆に僕の方の張り詰めていた気持ちがふっと緩んだ。
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