僕惚れ①『つべこべ言わずに僕に惚れろよ』
 葵咲ちゃんの手からバッグを取ると、僕はそれをソファに置いた。

「手に跡、付いちゃってる」

 彼女の指を(くつろ)げると、(てのひら)にハンドバッグの持ち手のステッチ模様が付いていた。

「どんだけ強く握ってんの」

 思わず笑みが漏れた。彼女の、僕のものよりひとまわり以上小さな手を包み込んで、跡になっているところに優しくキスをする。

 そのままその手を引いて、僕はリビングの先の寝室の扉を開いた。

 寝室の向こうはバルコニーに続いている。
 大きな窓から差し込む光は結構眩しくて――。

「カーテン閉めようね」

 言うまでもないことだと思いながら……。

 意地悪く逐一(ちくいち)声に出してみたくなるのは、葵咲ちゃんの反応が余りにも可愛いから。

 僕に引かれた手にほんの少し力がこもる。

 それだけで、僕には彼女の気持ちが伝わってくる。
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