僕惚れ①『つべこべ言わずに僕に惚れろよ』
 彼女をベッドに座らせると、僕はカーテンを引いた。

 遮光カーテンならよかったんだろうけど、僕は目覚めにはある程度の光がいるかな?なんて思うタイプで……残念ながらこのカーテンは遮光カーテンではない。

 閉めてはみたものの、思ったほど光を遮断してくれなかった。

 振り返ると、うっすら明るい部屋の中で、葵咲(きさき)ちゃんが不安そうに僕を見ていた。

 今から何が起こるのか、自分がどんなふうにされるのか、不安で堪らない、とその目は物語っていて。

(葵咲ちゃん、やっぱり初めてかな……)

 今更のようにそんな考えに思い至る。

 はきはきと物を言う割には、恋愛関係に対しては割と奥手な彼女だから、多分そんな気がする。

 僕はというと……実は経験がないわけではなくて……。

 葵咲ちゃん一筋と言いながら、恥ずかしい限りなんだけど、でも、いざ彼女と事に及ぶ時に年上の男として余りに情けないことはしたくないな、とか思ってしまって。

 要するに……はい、経験あります、割としっかり……。……その、後腐れない感じの年上の女性と、行きずり的に。

 その時に学んだあれやこれやが、果たして本命相手に生かせるかどうか。

 いや、生かすしかない。
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