僕惚れ①『つべこべ言わずに僕に惚れろよ』

*2.side-Rihito-

 唇に触れる感触にふと目を覚ました理人(りひと)は、目的を達成したとばかりに離れていこうとする葵咲(きさき)の気配に、咄嗟に彼女の腕を掴んでいた。

 思わず自分のほうに引き寄せた弾みで、葵咲が理人の上に倒れ掛かってくる。

 わざと彼女の頭を押さえて自分の胸に押し当てる。

(僕がどんなに強く彼女を求め、鼓動を打っているのか伝わればいい)

 そんなことを思いながらしばしその状態を楽しんでから、くるりと向きを変えて彼女と体位を入れ替えた。

 葵咲の細い身体を自分の下に組み敷く形に。

「ねぇ、葵咲。もう一回……」

 彼女を見下ろしながら切なさを吐き出すようにそういうと、返事を待たずに深い口付けを落とす。

 さっき彼女からされたものは、唇が触れる程度の軽いものだったけれど、今回のは違う。もっと、角度の深い、性的な刺激を感じさせるキスだ。

 葵咲の歯列を舌先でなぞると、堪えきれないようにほんの少し隙間ができた。それを見逃さずに口中に侵入すると、おずおずと逃げ惑う葵咲の舌を執拗に絡め取る。

 角度を変えては舌を吸い上げ……存分に彼女の口中を楽しんでから、
「胸、触ってもいい?」
 いつもはそんなこと聞かずに触るくせに、キスだけで蕩《とろ》けたような顔になる彼女が余りに可愛くて、わざと逐一《ちくいち》聞いてみたくなった。

 もちろん、答えは期待していない。

< 126 / 132 >

この作品をシェア

pagetop