僕惚れ①『つべこべ言わずに僕に惚れろよ』
「違うの?」

 畳み掛けるようにそう問えば、葵咲(きさき)ちゃんは「違わない」と答えるしかない。

 僕のことを避けたり無視したりしていたわけではないのだから、僕の話を聞く時間だってあるはずだ。

「そっか、よかった。じゃあ、葵咲ちゃんとなかなか会えなくて、ずっと伝えそびれてたこと、今言うね」

「……なに?」

 僕が何を言い出すのか不安で堪らないんだろう。所在無くスカーフに添えられていた葵咲ちゃんの手に、ほんの少し力が入る。

「葵咲ちゃんが中学生の時まではずっと我慢してたんだけどね、これからは僕、もう遠慮なくいくから」

「え……?」

 葵咲ちゃんの瞳が不安げに揺れる。

「僕はもう君の兄貴役を演じるのはやめる。……だから()()、君もこれからは一人の男として僕を見ろ」

 あえて葵咲、と呼び捨てすることで、僕の告白から常ならぬものを感じ取ってくれたら。

 半ば祈るように、そう、思った。
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