僕惚れ①『つべこべ言わずに僕に惚れろよ』
 久々に見る葵咲(きさき)ちゃんのコーディネートは、薄手の白の長袖ブラウスに、藤色のグラデーションカラーのロングスカート。足元は白のエスパドリーユ。
 女子高生の時とはまた違った大人の魅力を感じる落ち着いたコーディネートに、あの小さかった女の子も、とうとう大学生になったんだなぁと今更のように実感する。
 髪も、緩めの編み込みで一つに束ねられていて、ふんわりした印象がとても愛らしい。
 帆布のキャンバストートを肩に下げているところが如何にも女子大生っぽくていいな、なんて思ってしまう。

 鈴木君に、返却の本を手渡しながら二言三言会話を交わしているようだ。

 本を返し終わると、カウンター横のエレベーターのボタンを押す姿が目に入った。
 エレベーターを使うということは、割と下の階に行く可能性が高い。
 そう思った僕は一人事務室内でガッツポーズをする。
 エレベーターの扉が開いて葵咲ちゃんが乗り込むのを確認して、僕はおもむろに事務室の扉を開けた。
 はやる気持ちを抑えながら足早にロビーを突っ切る。
 歩きながら、エレベーターの昇降ランプを目で追うことも忘れない。

「書庫に入るついでにこれ、片付けてくるよ」

 何気ない風を装ってカウンターの鈴木君に声を掛けながら、今しがた葵咲ちゃんから返却されたばかりの本を2冊手に取る。
 無口な鈴木君が会釈で返してくるのを横目に見ながら、僕は書庫の階段を足早に駆け降りた。
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