僕惚れ①『つべこべ言わずに僕に惚れろよ』
 ロビーに三台並んだ、蔵書管理用のパソコンとは切り離された、申請すれば誰でも利用可能なインターネット用のパソコンと違い、膨大な書誌データを守るため、事務処理用のパソコンはセキュリティの関係でフィルターが働く。
 ブロックされるサイトの頻度(ひんど)が結構高くてあちこちに飛ぶのは無理だけど、あらかじめ設定したアドレスにメールくらいは送れるようになっている。

 僕は館外に出るときのためにバイトの子たちにはメールでの呼び出し方法も伝えていた。

 外に出ると、五月の心地よい日差しが降り注いできた。本格的な夏の到来まであと少し。

 今まで薄暗い室内にいたせいか、明るい陽光が結構(こた)える。僕は目を(すが)めると、手をかざして影を作りながら上空を見上げた。

 青い空に、ぽつぽつ漂うわた雲。今は太陽にかかる位置に雲は浮かんでいないようだ。

 青空と雲のコントラストにしばし見入っていたら、目が明るさに慣れてきた。

 僕はカフェに向かって歩き出しながら、いい加減葵咲(きさき)ちゃんに連絡を入れないとな、と改めて思った。
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