僕惚れ①『つべこべ言わずに僕に惚れろよ』
「館長?」

 と、突然後ろから控えめに声をかけられて、振り向くと鈴木君が立っていた。

 僕が天を仰いで立ち止まっていたからだろう。きょとんとした顔の鈴木君に、
「なんか面白い雲だと思ってね」

 ぼんやりしているところを見られたのが何となく気恥ずかしくて、言い訳めいた言葉を(つむ)ぐ。

 僕の言葉につられるように、鈴木君も上空を振り仰いだ。と、彼の細い身体がぐらりと(かし)いで、僕はびっくりする。立ちくらみだろうか。

 慌てて背中を支えると、
「す、すみません……」
 彼は恥ずかしそうにうつむいた。

 そういえばこの子、あまり身体が丈夫ではないと言っていたっけ。

「中、入ろっか?」

 こんなところに突っ立って長居するのも変だし。
 僕は鈴木君を(うなが)してエレベーターに向かった。
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