僕惚れ①『つべこべ言わずに僕に惚れろよ』
 二人の呼称に気づいてから、ほかのバイトの子たちにも注意を払ってみたけれど、他のみんなはそんなにお互いを親しげに呼び合っている感じはしなかった。

「鈴木君と篠原さんって恋人同士?」
 なんて突っ込んだことを聞いてしまったのも、悶々としていたからかもしれない。

 ちょっと踏み込みすぎてしまった。

 困った顔をしてうつむく鈴木君に対して、「元! 恋人同士です」と、篠原さんはあっけらかんと答えてくれた。

 何ていうか、別れた後も仲良くしている二人を見ていると、ちょっとうらやましいな、とか思う。

 考えたくないけれど、もしも葵咲ちゃんとうまくいかなかった場合、僕も、彼女とずっとあんな風に笑い合える仲でいられるだろうか?

 そんなことを思ってしまった。
< 63 / 132 >

この作品をシェア

pagetop