僕惚れ①『つべこべ言わずに僕に惚れろよ』
コール
 部分的に開館したくても、建物の構造上なかなかそういうわけにもいかず、特に今回の場合受付けロビーを含む上層階が強くダメージを受けていたことで、図書館業務が再開できる目処が立ったのは、地震から優に三週間後のことだった。

 六階の片付けの最中に失くしていたスマホを見付けたのも丁度その頃で。

 六階は書架がドミノ倒しの要領で倒れていたから、一架(いっか)一架(いっか)学生たちの手を借りて順々に起こしては散らばった本を集めて整理していった。

 僕たちに倒れ掛かってきた本棚は最後の一台だったから、起こせたのも最後で、思いのほかスマホを見つけるのにも時間がかかってしまった。途中、余りにも不便なので機種変を考えたくらいだ。

 フロアマットには僕の血だまりの跡が残っていて……棚を起こして散乱した本を退かしてみると、案外そこからそう遠くないところに本に埋もれるようにして、僕のスマホは落ちていた。

 数週間ぶりの愛機。当然充電は切れてしまっていてうんともすんとも言わなかったけれど、それを手にした途端、どうしてもその履歴が気になってしまう。

 迷った末に、僕は久々に早目に帰宅することにした。

 そうしようと思えたのは、大荒れだった図書館が、学生たちの尽力によりあらかた片付き、再開への道筋が見えてきたことも大きかった。
< 64 / 132 >

この作品をシェア

pagetop