僕惚れ①『つべこべ言わずに僕に惚れろよ』
 図書館前の、小さな門灯の下に、彼女は一人佇んでいた。

「――ッ、葵咲(きさき)!」

 幸い構内に転々と設けられた外灯のおかげで、僕が想像したほど暗くはなかったけれど、それでもこんな薄暗いところに彼女が一人でいたことに、今更ながらゾッとする。

 白のアンサンブルに、大きめの縦ストライプが入ったフレアスカートを履いた彼女は、今日もとっても愛らしかった。こんなに可愛い子が、変な男に連れ去られなくて本当に良かった!と僕は心の底から安堵(あんど)する。

 彼女に駆け寄ると、思わずギュッと抱きしめてから、
「何でもっと明るいところにいないんだ!」
 ホッとしたら、つい子どもの頃の調子で叱ってしまった。兄貴面(あにきづら)しないで!と怒られるだろうか。

 そう思ったけれど、僕の腕の中の彼女は予想に反して小さな声で、とても素直に「ごめんなさい……」と謝った。

 僕は彼女を抱きしめたまま
「頼むから……心配かけんな」
 彼女の髪に顔を埋めて、呟くようにそう吐き出すのが精一杯だった。

 散々彼女を心配させておいて、どの口が言うんだ?と思いながら。
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