僕惚れ①『つべこべ言わずに僕に惚れろよ』
呼び名
 小学生のころ、丸一年をかけて彼女と通学路をともに歩んだことで、僕は葵咲(きさき)ちゃんからの絶対の信頼を勝ち取ったはずだった。

 家が近所、おまけに母親同士が幼なじみというのも功を奏して、僕らはしょっちゅうお互いの家を行き来していたし、実際、僕は彼女の親御さんからの信頼も厚かった。お婆ちゃんに至っては幼い頃から見知った僕のことを葵咲ちゃん同様、実の孫のように可愛がってくれたものだ。

 そんなこんなで外堀固めはバッチリで、肝心の本丸にしたって、既に僕の手中にあるも同然だと思っていた。

 一緒にいるときは本当の兄妹のように手を繋いで道を歩いたし、彼女を僕の膝の上に載せて絵本の読み聞かせをしたことだって数知れない。

 僕が――というより僕の分身が――反応してしまいそうで丁重に断ったけれど、幼い頃の葵咲ちゃんは「お兄ちゃん、お風呂一緒に入ろう?」と誘ってくるほどに、僕に対して警戒心がなかった。

 その関係は、彼女が四年生に上がる辺りまで確かに続いていたはずなのだ。

 しかし――。
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