僕惚れ①『つべこべ言わずに僕に惚れろよ』
 結局僕の顔をマトモに見てくれない――見られない?――葵咲(きさき)ちゃんの手を引いて、僕は今、車に向かって歩いている。

 さっきは物凄く遠く感じられた道のりも、葵咲ちゃんと一緒だからかあっという間に距離が削られて行く。葵咲ちゃんの反応に、心が浮き足立っているからかもしれない。

 家を出る前に感じた不安が、今は嘘みたいに吹き飛んでいた。

 でも……だからこそ。

 歩きながら色々考えていた僕は、とりあえずそのひとつを口の()にのせてみた。

「さすがに一人暮らしの男の家に君を上げるのはマズイと思うんだ」

 主に僕の理性が……。
 心の中で、そう(つぶや)く。

 今更何を言いだすの?と思ったのかもしれない。葵咲ちゃんは何も言わなかった。もしくはさっきのダメージをまだ引きずっているのかな?
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