僕惚れ①『つべこべ言わずに僕に惚れろよ』
葵咲(きさき)。それ、本気で言ってるの?」

 彼女の手を握る腕に、思わず力をこめすぎてしまった。

「……理人(りひと)、痛いっ」
 顔をゆがめて僕の名を呼ぶ葵咲ちゃんの声に、慌てて手を放す。でも、さっきの言葉の真意だけは、どうしても確認したい。

「どうなの?」
 うつむく葵咲ちゃんの頬に手をかけてこちらを無理矢理向かせると、僕は再度そう問いかけた。

 なのに。

「……り、理人だって」
 僕から必死に視線を逸らしながら、それでも葵咲ちゃんが不満げな声を上げたのは何でなんだ?

「僕だって、何? 言いたいことがあるんならこっち見て話せよ」

 何でそこでそういう切り返しになるのか。今は僕が聞いてる番だろ。
 葵咲ちゃんの煮え切らない態度に、僕は大人気なくイライラしてしまう。

「いつもカウンターは鈴木さんが多くて気づかなかったけど……図書館のバイトの人、女の子ばっかりじゃないっ。……みんな、可愛いかったしっ。理人だって、そう思ってるんじゃないの……?」

 そういえば、葵咲ちゃんは、僕が退院してからこっち、僕のアパートと図書館前を何度も何度も行ったり来たりしたと言っていた。

 僕自身は連日遅くまで残って作業していたから葵咲ちゃんに出会うことはなかったけれど、バイトの子達は――特に女の子たちは――少なくとも19時までには帰らせていたから……。葵咲ちゃんはその子たちを見たんだろうか。

 って、ちょっと待て。だからって何でそうなる!?
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