僕惚れ①『つべこべ言わずに僕に惚れろよ』

「とりあえず、乗って？」

　さっきの一件があってから、彼女は何となく機嫌が悪い。

　僕が、葵咲(きさき)ちゃんが妬いている風なのが嬉しくて、思わず彼女の言葉を一度受け入れたような言い方をしてしまったことが、お姫様の逆鱗(げきりん)に触れたらしい。

　頭を冷やして1つずつ整理しながら話した方がいいと思って一旦話を終わらせたのも、いけなかったみたいだ。

　彼女が不機嫌な理由は分かるけれど、それは全くの濡れ衣なんだけどな。そんなことを思いながら、葵咲ちゃんを愛車――黒のＮボックス――の助手席へ導いた。

　ムスッとしているけれど、案外素直に車に乗り込んでくれた彼女に、僕はひとまずホッと胸を撫でおろす。本気で彼女が聞く耳を持たない時は、取り付く島がない感じになるので、この反応はまだ上々なほうだ。