僕惚れ①『つべこべ言わずに僕に惚れろよ』
 目的地までは車で10分足らず。

 その間、葵咲(きさき)ちゃんはずっと窓外ばかり見つめていて、僕の方を向こうとはしなかった。だからといって、繋いだ手を振りほどく素振りもない。

 そんな彼女の顔を、僕は信号待ちのたびに鏡面になった窓ガラスで確認していた。
 おそらく彼女からもそんな僕の様子は見えているんだろうけれど、ある意味不自然なくらい何のリアクションもなくて。

 一度機嫌を損ねると、割と強情な子なのは知っていたので、僕も()えて口を開かずにアリアを目指した。

 さすがに店内に入って差し向かいに腰を下ろしたなら、嫌でも話さないといけなくなるだろうし。
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