僕惚れ①『つべこべ言わずに僕に惚れろよ』
頼むものも決まったし、さて注文……と思ってメニューから顔を上げると、僕が店員を呼ぶ素振りを見せるより以前に、先ほどのウェイターがやってくる。
「お決まりですか?」
そんなに見られていた気はしなかったんだけど、実際客の動向をよく見てるんだなぁ、と感心してしまう。プロだ。
彼はクール系で、そんなに愛想がいいわけじゃない。だからといって失礼なわけでもなく……。何ていうか、彼の接客は僕にとってとても居心地の良い距離感なのだ。
彼がホールを気にしている間なら、変に邪魔されずに葵咲ちゃんと込み入った話ができる気がした。
間の悪い接客とか、そういうのとは無縁そうな……そんなイメージの男。
葵咲ちゃんがかっこいい、と称した店員の中には、絶対彼も入ってるな。
オーダーを通しにさっさときびすを返した長身の後ろ姿を見送りながら、そんなことを思って、我知らずため息がこぼれる。
ここに来る前は葵咲ちゃんに関しては、僕がここの店員に引けを取るはずがないとか思っていたんだけれど。
実際に来て彼の仕事ぶりを見ると、男の目から見ても嫌味なくらい、カッコよく見えてしまった。
(完敗だ……)
気遣いとかそういう面で。
だからと言って、葵咲ちゃんを渡す気は毛頭ないし、そもそも相手から宣戦布告されたわけでも、彼女自身からあのウェイターが好きだと言われたわけでもないんだけど。
(僕は何を一人で空回りをしてるんだろう?)
そう気付くと、何だか自分がとても滑稽に思えて一人微苦笑した。