僕惚れ①『つべこべ言わずに僕に惚れろよ』
 しばらくすると、それぞれの頼んだものがテーブルに並んだ。

 食後の飲み物は別だけど、とりあえず食べるものは全てそろった。

「いただきます」

 二人で食卓を囲んでいただきます、をするのは子どもの頃以来。なんか懐かしい。

葵咲(きさき)。さっき君が言った図書館のバイトの子たちの話なんだけどね……」

 それで、余り気負わずに話し始められたのかもしれない。

 葵咲ちゃんは依然として僕の顔を見てくれないし、僕が話し始めてもそれは変わらなかった。でも、彼女のドリアをつつく手が止まっていることや、時折(うなず)く仕草から、僕の話を聞いてくれているのは分かったから、構わず話し続けた。

「君も分かってると思うけど……バイトの子たちには曲がりなりにも図書館の仕事をしてもらう。誰でも彼でもいいって感じで選んでるわけじゃないんだ」

 今いるメンバーは前館長だった内田さんが選んだ子達であること、図書館学を専攻する比率はどうしても女学生のほうが高いことなどを僕は淡々と説明した。ある統計データによると、司書の実に八割が女性、二割が男性ということだから、それだけでも男が少ないのが分かると思う。
 実際僕が大学で図書館学を専攻したときも、百人近くいた受講生の中で、男は僕を入れて三十人にも満たなかったし。

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