僕惚れ①『つべこべ言わずに僕に惚れろよ』
 そして今――。

 僕たちの前には各々紅茶と珈琲が置かれている。
 店内は程よく空調が効いていて、ともすると冷んやり感じるくらいだったから、2人ともホットを頼んだ。

 さて、飲み物が運ばれてきた、ここからが僕にとっては本題だ。

 そう思って、気持ちを落ち着けるためにカップから立ち昇る湯気を眺めていたら、不意に睡魔が降りてきた。

 このところの連日の重労働が堪えているのかもしれない。

 僕は葵咲ちゃんに見えない角度でそっと欠伸(あくび)を噛み殺すと、何気なく眼鏡を外してテーブルの上に置いた。

 普段コンタクトだからか、眼鏡はやはり疲れる。パッドが触れる鼻のあたりに跡が付くのも実は苦手で、それを和らげるつもりで眉間から鼻筋にかけてのラインを軽く揉みほぐした。
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