【SR】卵

…1…





「あっ、亜由美、前田が呼んでたよ」

「うん……ありがとう」




放課後の人けのない廊下。

すれ違ったのは、クラスメイトの亜由美だ。

鞄を持っていたから、もう帰るところだったのだろう。

秋風が窓の隙間から吹き込み、私はその冷たさに思わず首をすくめた。


年が明けたら、高校受験が待ち構えている。

そんな三年の廊下は、人影はなく静まり返っていた。

私はと言えば、進路のことで担任の前田に呼び出されたところだった。


「最近、成績が下がり気味だが、大丈夫なのか?お前の希望高校だと今のままじゃ危ないぞ」


そんな、ありきたりなお説教を聞かされ、うんざりだ。

さっきすれ違った亜由美は、私に比べたら、成績優秀、品行方正、前田のお気に入り。

既に、ここら辺では有名な進学校のへの推薦が決まっているらしいと、誰かが言っていた。

呼び出されたところで、私のように小言を言われる訳でもない。

なのに、あの少しすました態度がどうも気に食わなかった。








< 1 / 35 >

この作品をシェア

pagetop