【SR】卵
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…1…
「あっ、亜由美、前田が呼んでたよ」
「うん……ありがとう」
放課後の人けのない廊下。
すれ違ったのは、クラスメイトの亜由美だ。
鞄を持っていたから、もう帰るところだったのだろう。
秋風が窓の隙間から吹き込み、私はその冷たさに思わず首をすくめた。
年が明けたら、高校受験が待ち構えている。
そんな三年の廊下は、人影はなく静まり返っていた。
私はと言えば、進路のことで担任の前田に呼び出されたところだった。
「最近、成績が下がり気味だが、大丈夫なのか?お前の希望高校だと今のままじゃ危ないぞ」
そんな、ありきたりなお説教を聞かされ、うんざりだ。
さっきすれ違った亜由美は、私に比べたら、成績優秀、品行方正、前田のお気に入り。
既に、ここら辺では有名な進学校のへの推薦が決まっているらしいと、誰かが言っていた。
呼び出されたところで、私のように小言を言われる訳でもない。
なのに、あの少しすました態度がどうも気に食わなかった。