【SR】卵
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すると、にわかに二階が騒がしくなった。
部屋を飛び出し、階段を駆け下りる。
玄関に見ると、まだ八時だというのに、父の靴も、母の靴もあって驚いた。
家族なんていなくなってしまえば……そう言ったばかりなのに。
そんな日に限って、二人ともこんなに帰宅が早いだなんて。
やっぱり、おまじないなんてね、と心の中で苦笑してしまった。
でも、突然バンというテーブルを叩く大きな音が、リビングのドアの向こうから聞こえてきて、ビクっと肩が震えた。
扉を開けようとする手前で、中から聞こえてきた喚き声に、思わず立ち止まる。
「あなた、しらばっくれるのもいい加減にしてちょうだい。田辺さんところの奥さんが、こないだあなたと若い女が、会社の車で休みの日に出掛けてるところを見た、って言ってたのよ」
喚き散らす母の怒声が、廊下まで響いた。
「お前、そんなの人違いに決まってるだろ?俺は、休みの日も、家族のために働いてるんだよ」
明らかにうんざりといった、父の声だ。