【SR】卵
「平井さんは、心のどこかで、それを本当に望んでいたんじゃない?」
「え?」
彼は、私たちの間にある、机上の人形の頭を優しく撫でながら、こう続けた。
「この人形はね、心からそう念じないと、願いを叶えてはくれないんだ。そして、願いが叶うと粉々に砕け散ってしまうんだ。ここに亀裂が入ってるってことは、願いが叶い始めた証拠さ」
「そんな……」
呆然と人形を見つめるしかなかった。
昨日は、傷一つなかったのに、確かに大きな亀裂が走っている。
もし、彼の言うことが本当なら―――
この人形が粉々になってしまえば、私の家族もいなくなってしまう……ということだ。
冷たくなった掌は、じんわりと汗ばんでいる。
背筋にも冷たいものが走り、ふと我に返ると、もう目の前に彼の姿はなかった。
こんなの、ただの偶然だ。
おまじないなんて……そんなの、ただの迷信に決まってる。
そう思い込もうとしても、笑いかける人形が、私の心を見透かしているようで、目を合わせていられなかった。
私は素早くそれを元の通り布に包むと、大事に鞄の中にしのばせ、足早に教室を後にした。