【SR】卵
家に帰りついたら、もう11時を回っていた。
午後の授業しか出られないけど、家にいる気分ではない。
鞄を取りに部屋へ向かった。
扉を開け、目に飛び込んできたものに、私は言葉を失った。
それは、今にも胴体が崩れ落ちそうな人形だったんだ。
その姿は、もう、もとの卵の原型を留めてはいなかった。
ダメ―――
これが粉々になったら、取り返しのつかないことになってしまう。
卵の人形を下敷きの布ごと両手で包み込み、今昇った階段を駆け下りた。
そして、リビングのサイドボードの引き出しをひっくり返した。
ない―
ない――
ない―――
ここに、文房具一式をお母さんがしまってるはずなのに……
あった!
引き出しの奥から木工用のボンドを見つけた。
それからは、無我夢中で人形の罅割れにボンドを塗り、必死に破片を貼り合わせた。
お願い、願いごとなんて、叶えなくていいから、粉々になんかならないで―――
私はバラバラになる家族を拾い集めるように、零れ落ちる欠片を、繋ぎ合わせていたんだ。