【SR】卵
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…8…
校長室に入ったのなんて、初めてだ。
緊張で背筋が伸びる。
「どうぞ」と促され、黒くてひんやりする応接セットのソファに、校長先生と向かい合わせに腰を下ろした。
「あの……」
ここに招かれた理由が分らず、問いかけようとしたのだが、校長先生の言葉で遮られた。
「ありがとう」
「え?」
予想外の言葉に、一瞬、目をしばたいた。
「えっと……」
「そう、あの子が言っていたよ」
「あの子って」
「君のクラスで世話になったノゾミだよ」
「ノゾミ?」
その時、先生の後ろにある物が視界に入り、私は思わず声を上げた。
「あー!これって!」
思わず立ち上がり駆け寄った。
それを手に取り、先生を振り返った。
「あぁ、これは、私の妹が嫁いだ先の国でよく見られるものなんだ。今回、ノゾミがこっちにくる時に持ってきてくれてね」
先生は、それを見ながら、愛おしそうに微笑んだ。
そう、それは、私が彼からもらった卵の殻の置物だったんだ。
でも、彼が私にくれたような人形の絵ではない。
カラフルに地塗りされたものに、独特の模様が描かれていて、色違いのものがいくつも並べられていた。
それに、私がもらったものよりも、随分丈夫で、ニスでテカテカに塗られているようだ。