【SR】卵
「え…っと、あなた、喋れるのね?」
そう言うと、彼はクスっと笑って、私の方へ顔を向けたんだ。
彼は、一週間前に突然やってきた留学生だ。
中央アジアかどこか、遠く離れた国からやって来たそうだ。
校長先生と親戚らしく、短い間、日本に滞在するらしい。
少し西洋の面影がありつつも、アジアの香りが漂い、日本人だと言われてもあまり違和感を感じない、不思議な顔立ちだった。
灰色がかった深いグリーンの瞳が、とても印象的だ。
私たちと同じ中学三年生だと聞いているが、その雰囲気は落ち着いていて、大人びているように見えた。
このクラスに来て以来、始めはみんなも興味本位で、いろいろ話しかけていた。
しかし、全く応じない彼に、みんなの興味も、いつの間にか冷めてしまった。
私は、さすがに席が前後ということもあり「おはよう」や「バイバイ」程度の挨拶は、かけていた。
でも、てっきり、彼が言葉など分らないのだろうと思っていたのだ。