【SR】卵
「こんな時間まで、何してるの?」
誰もいない教室に、明かりも点けずにいるのが不思議だった。
「おじさんに呼ばれてね」
「えっと、校長先生と親戚だったよね」
すぐ帰ると思っていたのに、帰り支度は整っているものの、彼が席を立たない。
私も、何故か、その場から動けずにいた。
無言の空気に耐え切れず、私の方から口を開いた。
「ねぇ、泣いてるって?」
さっき、彼の言った言葉だ。
どこからどう見たって、私、泣いてなんかないのに……
「泣いてるよ。心が泣いてる」
「心が?」
彼はそう言うと、鞄の中からゴソゴソと小さな包みを取り出した。
机の上に広げられたのは、小さな人形だったんだ。
「かわいい~」
卵の形の可愛らしい人形だった。
絵の具で、綺麗に顔や洋服が描かれていて、民族衣装のようなものを着ている。
どこかの国の女の子みたいなんだけど、何せ卵型の体型だから、愛嬌たっぷりだ。
そして、その瞳は、彼と同じグレーがかった深い緑色だった。