【SR】卵
そう言う私に、彼は卵の人形を手にとり、薄くて柔らかい布に包むと、私の前に差し出した。
「願いを唱えながら、この人形に魂を込めるんだ」
私は何故か、彼の瞳に吸い寄せられるように、その人形を受け取っていたんだ。
「魂を込める?」
「あぁ、強く念じながら願い事を唱えて、この人形にキスをするんだ」
「そんなに簡単なことでいいの?」
ふと顔をあげると、とても真剣な顔があって、少し身構えてしまう。
「簡単じゃないよ。強く強く念じるんだ。魂を吹き込むようにね」
彼はそう言い終わると、フワっと優しい笑顔を見せたんだ。
受け取ってしまったので、何となく返し辛くなり、私はそれを持ったまま、歩き出した。
後ろから声が聞こえ、思わず立ち止まった。
振り返ったけど、逆光になって彼の表情は見えない。
「それ、壊れやすいから、気をつけてね」
彼の優しい声が、静かな教室に響く。
私は、なんだか急にドキドキしてきた胸を押さえ、教室を後にした。