ディープ・アフェクション
まるで何かから逃げるように、今来た道を戻った。
こんなに走るのはいつぶりだろうと思うほどには、本当に全力で走っていたと思う。
だってもう、何もかもが分からなくなった。
恋とか愛とか、よく分からない。
みんなが普通にできていること、みんなに普通に携わっている感情が、私には理解できない。
ただ、私は楽しく過ごせたらそれで良かった。
くだらなくて笑ってしまうような、そんな時間を皇明と過ごせたら、それで―――……
「、っはぁ!?」
いろんな思考がぐるぐると脳内を駆け巡る中、背後から足音が近づいてきているのが聞こえて走りながらも後ろを振り返った瞬間、思わず素っ頓狂な声を上げてしまった。
だって、だって!!
なんで皇明まで走ってきてんの!?
そう。まさかのまさか、皇明まで私を追うように全力で走ってきているんだから、面食らったなんてもんじゃなかった。
プチパニックに陥りながらも、此処で大人しく止まれるわけもなく。
気づいたら、皇明と小さな頃よく遊びに訪れた河川敷まで辿り着いていた。
息はもう絶え絶えで、額にはじんわりと汗が滲んで、
「っ里茉 、」
私を呼ぶ皇明の声が背中に掛かった刹那、パシっと腕を掴まれた。
「や!離して!」
「っおい、暴れんな」
追いつかれたのだと分かれば、後はもう暴れるしか選択肢がなかった。
皇明に掴まれている腕をどうにか振り払おうと身を捩っていると、昨日の雨のせいで泥濘《ぬかる》んでいた地面に呆気なく足を取られてしまった。
ずるり、と滑って重心を崩した身体は大きく傾く。
「きゃぁっ」という私の声と「うぉ、」という皇明の声が見事にシンクロした次の瞬間、2人して仲良く、ほぼ泥と化している地面にダイブしてしまった。