ディープ・アフェクション
びちゃびちゃだった。
反射的に地面に突いた手も、着地したお尻も、カッターシャツもスカートも。何もかもがびちゃびちゃで、泥まみれになってしまった。そんな最悪な状態になったのは私だけではなく、一緒に転んでしまった皇明も似たり寄ったりな汚れ具合だった。
だけどお互い、そんな事は関係ないと言わんばかりに声を張り上げ合った。
「っなんで追いかけてくんの!」
「なんでって、お前が逃げるからだろ」
再び私の腕を掴んだ皇明は、その手にぐっと力を込める。まるで“逃がさねえぞ”とでも言っているようだ。
「お前こそなんでいきなり走んだよ」
「……」
半ば睨むような視線を向けてくる皇明に、思わず怯んでしまったのは一瞬の事だった。すぐにさっきの見知らぬ女の子との熱い抱擁シーンを思い出して、噛み付くように口を開いた。
「もういいでしょ、私のことは!あの子のとこに戻れば!?」
「はぁ?お前何言って、」
「結局 無理なんじゃん!私が先輩と別れても、皇明に“彼女”が出来れば、もう一緒に遊べないじゃん!!」
叫ぶようにそう言った私に、皇明は目を見張った。私の腕を掴んだままの手に、微かに力が加わる。
「…お前、別れたの?」
「……」
静かに問われたそれに、こくりと小さく頷いた。
矢継ぎ早に「なんで?」と皇明からの質問が飛んできたから、視線を少し落とした後、再び口を開いた。
「だって私……皇明と居るの、楽しいもん」
「……」
「気使わなくていいし、好きになる物も興味を持つ物も似てるし」
「……」
「ずっと、このままがいい」
夢見がちな事を言っていると、自分でも理解していた。私の発言はいつも現実的じゃない。いつまでも子供じみている。
皇明もそれを分かっているんだろう。ぐっと眉根を寄せて「いや、無理だろ」と呟いた。