ディープ・アフェクション
「ずっとこのままでなんて、居られるわけねーじゃん」
「…あの子と付き合うから?」
「あの子って?さっきの?」
「…うん」
泥で汚れた指先が微かに震えているのに気づいて、きゅっと手を握り締めた。何故だか分からないけど、皇明の答えを聞くのが怖くて仕方なかった。
幼い頃の面影を残したまま、いつの間にか実年齢よりもずっと大人びた顔立ちになった皇明をじっと見つめる。
皇明も同じように私を見つめて、私から一ミリも目線を離さぬまま、口を開いた。
「付き合うって言ったら、お前どうすんの」
「……どうって……」
まさかの質問返しに面食らってしまう。皇明はいつもならこんな回りくどい言い方をしたりしない。だからこそ、どう答えたらいいのかひどく狼狽えた。
「……どうにもできないよ」
ぽつりと言葉を落とした私に、皇明は一度目を伏せて「分かった」と呟く。
「質問 変える」
「うん?」
「俺がさっきの子と付き合ったら、お前はどう思う?」
「……」
「どんな気持ちになる?」
優しい声だった。
まるで促すようにそう聞かれて、何かを考える前に口が勝手に動いていた。
「…いやだ」
「……」
「だって私、皇明とゲームしたいもん。一緒に読みたい漫画だっていっぱいあるし、皇明のお母さんが作るチーズケーキだって食べたい。あ、あとカリカリのドーナツ。あれも食べられなくなるのは、やだ」
思っていることを素直につらつらと口にした私に、皇明はあからさまなくらいに眉間に皺を寄せた。
それが苛ついている時の表情だと気づいたと同時、ぐっと腕を掴まれた。