ディープ・アフェクション
「お前ほんと、どういうつもりなんだよ」
「ど、どういうって…ただ私は皇明とずっと一緒に居たいだけで、」
「だからそれがどういうつもりで言ってんだって聞いてんだよ」
痺れを切らしたように少し声を荒らげた皇明に、私は目を白黒させるしかなかった。
こんなにも皇明の言っている事が理解できないのは初めてかもしれないし、皇明と会話をしていてここまで話しが噛み合わないのも初めてかもしれない。
「――じゃあ、」
皇明は不服そうに眉を寄せたまま、私のカッターシャツの襟元をグイっと掴んだ。皇明の指先に付いていた泥が、白いシャツを汚れていく。
「そんなに俺と居たいなら、お前が俺の“彼女”になればいいだろ」
「…え?」
投げかけられた言葉の意味が、すぐに理解できなかった。
私が、皇明の、“彼女”……?
「…ほ、本気で言ってる?」
「冗談でこんなこと言うわけねーだろ」
「え、いや……え?」
「なんだよ、その顔」
「だ、だって…あれでしょ。“付き合う”って、き、キスとか…そういうこと、するんでしょ?」
そうだ。
先輩との事を相談した時、確かに皇明はそう言っていた。キスとかその先をするのが“付き合う”って事だって、そう言っていた。
「皇明って…私とそういうこと、できるの?」
おずおずとそう尋ねた私に皇明は眉のひとつすら動かさずに「いや、」と口を開いた。
「それ、俺の方がお前に聞きてえんだけど」
「え?」
「俺とそういうことできんの、お前」
射抜くような眼差しに捕らわれて、無意識のうちに喉がごくりと上下した。
目の前の皇明はとても冗談を言っているような雰囲気ではなかった。至って真剣に、その質問を私に真正面からぶつけてきている。
「早く答えろよ」
「そ、そんなの急に言われても考えたことなかったし」
「じゃあ考えろよ、今すぐ」
「っ、」
掴まれていた襟元が、より一層グイ、と引かれる。鼻先が触れそうな距離に、呼吸の仕方を忘れてしまいそうだった。
「どうすんの」
「っ皇明、」
「俺とずっと一緒に居たいなら、そうするしかねえよ」
「ちょっと、待って」
「待たねえ」
咄嗟にその胸を押し返したけれど、ビクともしなかった。さらに顔を寄せてきた皇明は、吐息がかかる距離で、最後の言葉を放った。
「嫌なら、思いっきり突き飛ばせよ」
「…っ」
目を伏せて、角度をつけて近づいてくる皇明の顔から、目が離せなかった。
乾いた泥のせいで少しカサついている皇明の指先が頬を掠めた瞬間、“あぁ、もう逃げられないかもしれない”って、そんな事を思った。
バクバクと壊れそうなくらいに脈打っている自分の心音を聴きながら、ぎゅっときつく目を閉じる。
もうそれは、受け入れたも同然の合図で。
「…っ、ん」
程なくして、唇に やわく、温かいものが触れるのを感じた。