ディープ・アフェクション
私たちの始まりは、決して美しくも、綺麗でもなかった。
草が生い茂っている見慣れた河川敷で、泥まみれの姿で、唇を合わせた。
そしていつの間にか、“ただの幼なじみ”から“恋人”にシフトチェンジしていた。たったそれだけの事だ。
私はあの時、皇明は何かに苛ついているんだと思っていたけれど、今思い返してみるとそうじゃなかったのかもしれないと思う。
ただ、必死だったんじゃないかなって。必死に私のことを、捕まえようとしてくれたんじゃないかなって。
自意識過剰かもしれない。
自分に都合よく受け取りすぎかもしれない。
でも、このくらいの自惚れは許してほしい。
だって私、皇明の口から“好き”って聞いた事、1回もないんだもん。
「―――……、」
深いところに沈んでいた意識が徐々に覚醒していくのを感じて、ゆっくりと目を開ける。
ごそごそと手だけを動かして、枕元にあるスマホの画面を確認すれば時刻は朝の8時になる頃を差していた。
今日は私も皇明も2限からだから朝はゆっくりできる。
少し水分補給しておこうと、むくりと上体を起こして布団から出ようとした、その時。
ぐいっと腕を引かれた。
「わ、」
身構えしていなかった身体は引かれた力のままに再び布団の中に引きずり込まれる。
すぐに腰に巻きついてきた逞しい腕をやわく撫でながら「皇明?」とその名を呟くように呼んだ。
ぐり、と私の胸元に顔を押し付けた皇明は「んー…」とくぐもった声を出す。
朝が苦手な皇明は、こうしてなかなか布団から抜け出せなかったりする。
大人びて見えるけど、こういうところは小さな時からちっとも変わらない。