ディープ・アフェクション
周りにいた女子が「きゃぁー!」と悲鳴を上げる。
そんなもの微塵も気にしていない様子でニコニコ笑っている里茉と、その向かいで呆然と突っ立っている俺。
手の平で受け止めきれなかったカエルが、地面をぴょんぴょん飛び回ったり、腕を這っていたりしている。
言わずもがな、カエルが触れているところはぬるぬるだ。
今までも里茉の奇行にドン引く事は多々あったけれど、こんなにも理解不能な状態に陥ったのは初めてだった。
「おまえ、なんなの?」
「ん?」
「なんでこんなにカエルつかまえてんだよ」
イラつきをそのままにそう言った俺に、里茉はニッコリと、それはそれは嬉しそうに笑った。
「だって、せんせーがすきなひとにはすきなものをあげるといいっていってたから!」
「は?」
「わたしがすきなカエル、こうめいにあげる!」
なんでよりにもよってそれがカエルなんだとか、多分ツッコむべきところはいっぱいあった。
だけど俺は、夥しいほどのカエルなんか一瞬で気にならなくなるくらい、前半の言葉の方が衝撃だった。
「おまえ、おれのこと…すきなの?」
きょとんとした表情でそう問いかけた俺に、里茉は えへへっと少し照れ笑いしながら、頷いた。
「うん!こうめいがいちばんすきっ!」
多分この時の里茉の好きの度合いなんて、せいぜいそこら辺の虫を可愛がるくらいのものだったと思う。
なのにそんな安っぽい言葉とバカみたいな満面の笑みに、まんまと心を奪われてしまった。
ひとつ言わせてほしい。
5歳の俺、チョロすぎ。