ディープ・アフェクション
私の声に反応したそいつはそこでゆるりと視線を此方に向けた。
「さっきそこで空大に会ったよ」
そう言いながら洗面台に向かえば、背後に「ふうん」と特に興味のなさそうな声を浴びる。
洗面台で手を洗ってから再び部屋に戻ると皇明はまた漫画に視線を向けていた。確か数日前に出たばかりの最新刊だ。
後で読ませてもらおうと目論みながら「水飲んでいい?」と問いかけると、視線は漫画に向けたまま「どーぞ」淡白な返事が返ってきた。
「空大ってさ、彼女できたの?」
グラスの中に水を注ぎながらそう聞いた私に、皇明の切れ長の瞳が向く。
「…なんで?」
「なんかさっき頭触ろうとしたらめちゃくちゃ避けられたんだよね」
「ふうん。ただ単にお前に触られんのが嫌だったんじゃねーの」
……こいつは。
可愛らしさというものを全て弟の空大に持っていかれたんじゃないかと思うくらいには憎たらしい。
「うざ」と呟けばハッと鼻で笑われた。意味が分からん。
ムッと眉を寄せていれば「そういや最近、実家に女連れ込んでたな」そんな言葉が聞こえてきたけれど「あっそ」と適当に相槌を打って、グラスの中の水を喉に流し込んだ。