ディープ・アフェクション



それにしても、空大に彼女だなんて…変な感じだ。

私の記憶の中ではカブトムシを採って喜んでいた記憶で止まっているから違和感を覚えるのも無理はないと思う。

でも、そんな空大ももう高校生。

色恋のひとつやふたつ、あって当然だろう。



…実際、私たちだって同じようなもんだ。

私と皇明の関係名が“幼なじみ”から“恋人”にシフトチェンジしたのは、高校に上がってしばらく経っての事だったから。



「あ。ねぇ」

「んー?」

「明日サークルの飲み会あるから、ここ来るの遅くなると思う」


グラスに2杯目になる水を注ぎながらそう言えば、「おー」と気のない返事が返ってくる。

グラスからソファの方に視線を向ければ、私の話しになんか微塵も興味がなさそうに、漫画に夢中になっている姿が視界に映る。




「……」


“安定とは、物事が落ち着いていて、激しい変動のないことを言う。”


一見、聞こえはいいかもしれないけれど、裏を返せばそれは、もうこれ以上 想いが溢れたり感情が昂ったりする事が無いという意味にも取れる気がしてならない。








コト、とテーブルの上にグラスを置いて、ソファに寝そべっている皇明の上に跨った。


「……なに」


漫画を隔てて向けられる瞳は相も変わらず鋭くて、涼しげで、愛想の欠片もない。

いつもツンケンしている皇明が必死だった姿を見たのは、もう何年も前の事だ。






「…してえの?」

「……」

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