星の残像は、白に滲む
図書室のドアを開けると、誰かとぶつかりそうになり咄嗟に後ずさる。
「わ、すんません」
胸に花をつけた女子生徒がちょうど入ってこようとしたところだったようで、花についた白いリボンに書いてある名前を見て目を見張る。
おずおずと視線をあげると、見知った顔がおかしそうに笑いかけてきた。
「やっぱりここにいると思った」
目の前には星藍先輩。あまりにも突然のことに、俺は目を見開いて硬直する。
まさかもう一度会えるとは思っていなかった。
「なんで……」
「最後だから会いたいなと思って」
淡い期待なんて、すぐに打ち砕いてくる。
最後って、そんな言葉を言ってくるなんて相変わらず残酷だ。
だけどそれなら俺も、こんなときくらいは諦め悪く食らいついてみよう。
「先輩、好きです」
呆れられて拒絶されても、伝えないよりはずっといい。
「だから、それください」
星藍先輩の胸元についている花を指差す。
それは生徒一人ひとりに贈られた名前付きのもので、第二ボタン的な役割をしているらしく好きな人のを貰いに行く女子が結構いるらしい。
「こんなの欲しいなんて、よくわからないよね。一条くんって」
「好きな人のものだから欲しいんですよ」
そんなことを言いながらも星藍先輩は、ピンを外して俺に花をくれた。
「私は一条くんが思っているような人じゃないよ。人あたりよくしているだけで、ひどいことだって心の中で何度も言ってる」
「俺もそんなもんっすよ」
「……そうかな。私たちは違うと思うけど」
「先輩はそうやって、自分と周りは違うってずっと捻くれてたらいいですよ」
誰だって、ひどいことくらい心の中で考える。周りの人の顔色を見ながらうまく振る舞うことだってある。
心の内側を全て晒すのが怖くても、それでも少しだけ寄り掛かれる存在が必要なんだ。
「先輩は最後まで結局大事なことは、なにひとつ教えてくれない」
どこの高校へ行くのかも、連絡先も、本当の気持ちも。
それなのに完全には俺を突き放さない。