星の残像は、白に滲む
「いやー、そんな見つめないでくださいって。見張りっていってもそこまでする必要ないっすから」
「一条くんって、真面目だね」
「は? え……真面目だったらこんなことになってないかと」
「不真面目だったら、ここには座らずに帰ってるよ」
それは確かに。納得した俺に、星藍先輩は「素直だね」とおかしそうに笑った。
なんだ、こんなふうに笑うこともあるのか。
星藍先輩はいつだって、穏やかで周りを見ていて、笑うときだって計算されているように見える。
だけど今のは、本当に笑っているように感じた。
……それすらも計算なのかもしれないけど。
英語の小テストをやり始めて三問目にとりかかったところで、細い指先がプリントに伸びてきた。
「スペル違うよ」
さらりと髪の束が流れ落ちて、星藍先輩が耳にかける。そして伏せられていた長い睫毛が持ち上がり、視線が交わった。
「ほら、ここaだよ」
「さすが先輩。どーも、ありがとうございます」
見惚れてしまったことを隠すように笑いながら軽い口調で返す。
妙な反応をして気づかれたくない。だけど、この人にはほんの些細な言動で簡単に見透かされそうで怖い。
勢いよく図書室のドアが開かれて、びくりと肩が跳ねた。
担任かと思ったけれど、訪問者は男子生徒だった。そしてその意外な人物に目を見張る。
「星藍」
親しげに名前を呼んだ男子生徒は、俺のことを横目で見ると、すぐに視界から消すように逸らしてきた。
そして「これ、仁華が借りてたやつ」と言って、星藍先輩にノートを渡す。
この男子生徒——瀬戸先輩と仁華という人は、三年生で有名なカップルだ。
幼なじみでずっと両思いだったとか。見た目も華やかなふたりだから憧れている人も多いらしい。
彼女が借りたものを、彼氏が星藍先輩に返しにきたということか。それにしても距離感が近い気がする。
「てか、なにしてんの」
この男は誰だとでも言いたげな態度に、俺はどうしたものかと星藍先輩を見た。