星の残像は、白に滲む


「勉強教えてるの」

あまりにも淡々と言葉を返した星藍先輩は、普段とは違って笑みがない。

そのことに俺は驚いて、じっくりと観察してしまう。
この人が話しかけられても笑顔を作らないのは珍しい。


「勉強って、なんで星藍が?」
「教えたいから」
「へー……お前って面倒見良いもんな」

正しくは先生に頼まれたから、なのだけど星藍先輩はそれを言わずに冷たい態度を取り続けている。


「こないだ貸した本、受け取りに行けるタイミングがあったら連絡して」
「……わかった」

瀬戸先輩は俺を軽く威嚇するように睨んだ後、図書室から出て行った。まるで付き合っているふたりの邪魔をしたような微妙な気分になる。

俺はため息を吐いて、言うか言わないか迷った言葉を口にする。


「そういうの無謀ってやつじゃないっすか」

とぼけられるか、怒らせるかどちらかだと思ったけれど、星藍先輩は小さく笑った。


「気づかれると思わなかった」

それは多分、俺がこの人を見ていたからだ。
星藍先輩には不思議な吸引力がある。目で追わずにはいられなくて、だけど分厚い壁があって近くには寄れない。

でも今は、その壁が消えている気がした。


「だけど半分正解で、半分不正解」
「どういうことっすか?」
「特別な人だけど、恋愛感情かって言われるとよくわからないの」
「俺には好きに見えましたけどね」

星藍先輩があの人を意識しているようにしか見えなかった。

誰にでも優しい人が、あんな態度をとるのは関心があるからだ。それに無謀という言葉に反応を示したということは、自覚があるのだと思う。


「好きになってほしいって望んでないからいいの」
「望んでないって、彼女がいるからってことっすか?」
「それ以前の問題。同じ想いをほしいなんて、欲張りだもの」
「えー……よくわかんね〜」

普通は好きになったら、振り向いてほしいものなんじゃないか?

星藍先輩があからさまに態度が冷たかったのはわざとだ。

俺といるから瀬戸先輩に素っ気なくしたのだろう。



「嫉妬させようとしたくせに、望んでないなんて言い訳じゃないっすか」

俺を使ったくせにと、指摘してみると星藍先輩は口角を上げた。


「嫉妬する彼が間違ってるの」
「まあ、それはそうっすね」



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