星の残像は、白に滲む


彼女がいるくせに、別の女に意識が向いているなんておかしなことだ。
だけど星藍先輩の思惑にまんまと引っかかっていて、掌で転がされていることは本人も気づいていないのだろう。


「ずいぶん親しげだったじゃないっすか」
「家が近いの。別に幼なじみってほどでもないけど、そんな距離感で接してくるだけ」

あのふたりほど付き合いは長くはないらしい。けれど、家が近所なため頻繁に瀬戸先輩とも彼女の方とも会うことが多いそうだ。


「関係を崩したくないから、言わないんですか?」
「面倒なことになりたくないだけ」

瀬戸先輩と彼女の仲を引き裂けば揉めるため、自分の気持ちを押し込んでいるのかと思った。でもそれだけではないらしい。


「ただ少し、彼に惹かれたのは自由でいいなと思ったの」
「いやぁ……瀬戸先輩は奔放すぎじゃないですか」
「そうだね」

作ったような笑みに、俺は眉を寄せる。

星藍先輩は瀬戸先輩のなにに惹かれているのか、理解できない。見る目ないなと呆れてしまう。


「あの人と付き合えたとしても、どうなるかわかりきってるから。だから想いなんていらないの」
「あー……知ってたんすね」

女子たちの間ではほとんど知られていないけど、男子たちの間では瀬戸先輩は浮気性と知られている。本命の彼女がいても、他校の女子たちと遊びまくっていて不誠実な人なのだ。


「知ってるなら、なんであんな男が好きなんっすか」
「私に期待しないところ」

意味がわからななくて首を傾げると、星藍先輩は困ったように眉を下げる。


「一条くんは学年が違うからピンとこないかも」

後輩に憧れられている星藍先輩は、同級生たちからも羨望を向けられているのだろうか。


「困ったことがあれば、私に頼れば大丈夫。そうやってみんな押し付けるから」

先ほどの担任のことが頭をよぎる。もしかしたら他の生徒だったら、あんな風に頼んでいないかもしれない。

星藍先輩なら言う通りにしてくれる。期待を裏切らない。そう周囲に思われていることが、この人にとってはプレッシャーということなのか。


「なら、そういう自分をやめたらいいんじゃないっすか」
「そうだね。そう思うこともあるけど……捨てられないの、自分を」

周りから頼られている自分が好きで、だけどそれに押し潰されそうになることもある。

そう呟いた星藍先輩は寂しそうな表情をしていた。




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