星の残像は、白に滲む
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十二月。星藍先輩の受験が近づいてきた。
気にしなくていいと言われたけれど、そろそろ勉強をみてもらうのも終わりにしたほうがいいのかもしれない。
図書室のヒーターの前で座っていると、授業が終わってやってきた星藍先輩が俺の姿を見つけてクスッと笑った。
「私も少し暖まろうかな」
こうして時々素の笑みを見せてくれる星藍先輩から、目が離せなくなる。
そんな気ないくせに。隣に座ってきたり、笑いかけられると諦めきれなくなってしまう。
「先輩はもうすぐいなくなるんっすよね」
「一学年上だからそうなるね」
「……寂しくなりますねー」
あーあ、なんでこんな面倒くさい人に俺は惹かれてるんだろう。一緒にいる時間が増えたからかもしれない。
だけどそれだけじゃなくて、惹かれたきっかけは多分この人の胡散臭い笑顔だと思う。なに考えてんだろうなって、そんなことを思ってから目で追うようになっていた。
瀬戸先輩への想いが冷めたとか言いながらも、なんだかんだ好きなことには変わりないだろうし、彼氏を作る気だってない。俺に振り向いてもくれない人だ。
〝無謀〟星藍先輩に言った言葉が、自分に返ってきてしまった。
「つか、なんで志望校教えてくれないんっすか?」
「教えたら追いかけてきそうだから」
「えっ、俺ストーカーになりそうって思われてるってこと?」
まあ、ちょっとは受験したいとか思うかもしれないけど。だけど嫌がられたらさすがにその高校は目指さない。
「私のこと、忘れたほうがいいよ」
ヒーターの前で膝を抱えながら、星藍先輩が俯く。
「残酷なこと言うくせに、なんで勉強見続けてくれるんっすか」
「……私が、まだ関わっていたいから」
前髪をくしゃりと掻いて、俺はため息を吐いた。
どうしようもなく馬鹿馬鹿しくて、虚しくて、嬉しくて、報われない。
「ほんっと残酷だな、先輩って」
「……幻滅していいよ」
「はいはい、もう別に幻滅しようと俺の気持ちは変わんねーし」
俺に気持ちはくれないくせに。
残された学校生活の中で、関わっていたいだなんて自分勝手だ。
一緒にいる時間を気にいってくれて、大事にしてくれているのはわかる。
だけど、俺はそれだけじゃ嫌だ。
「先輩、俺〝同じ想いがほしい〟ですよ。今すぐじゃなくても、いずれ」
「……一条くんは欲張りだね」
「人間みんな欲張りだって」
隣に座る星藍先輩の指先に手を伸ばす。冷え切った手は一瞬ぴくり動くと、躊躇いがちに俺の手を握ってきた。