今日も久遠くんは甘い言葉で私を惑わす。
「おやおや、お忘れですか?」


クスクスとからかうように微笑む東。

「他人に壊されるくらいなら自分で壊すって、色々なものを破壊していたではありませんか」

言われてみれば、そんなこともあったかもしれない。


「まったく、有名な上杉財閥の息子様のものを壊す者などいるわけないのに」

「……しるか。しょせんはガキがやってたことだ」


たしかに……いまでも、天音のことすら他人に奪われるくらいなら自ら消してしまいたいと思ってしまうことが、本当にたまにある。


誰にもいないところに、本気で監禁しようとも思える。


「……天音様も小さい頃からとっても優しくて、それはいまもお変わりのないようですが……久遠様と再会して、心なしか明るくなったように見えます」

天音が……?


「それは本当か」

「逆に嘘かとお思いですか?」

「……」


この使用人のことだから、信じたくても信じられない。


「ふふっ、私はおふたりのこと、応援していますよ。」

「……礼を言う……」

「ふふっ」


……でも、東も顔面がいい方だ、だから天音には出来るだけ合わせたくない……。


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