今日も久遠くんは甘い言葉で私を惑わす。
「ふ、りょう……?」

「うん、不良」

「……で、でもっ……久遠くんはっ……」


あんな最低なヤツを庇うの?

「天音ちゃんは、まだ好きなの?」

「へっ……!?」

「久遠のこと」

「……あ、あんなっ……人……しら……ない……」


天音ちゃんは拗ねたように目元を赤くさせて、ふいっとそっぽを向いた。


「じゃあ……これも、もういらないよね」

「えっ?」


天音ちゃんの細くて小さくて可愛い手を自分の手に重ね、指輪をゆっくりと抜いた。


きっと、いや絶対久遠のものだとわかっていたから。


「あっ……」

「僕が預かっておくね」


もう久遠のことを好きじゃないなら、こんなものいらないでしょう?


「で、でもそれはっ……」

「?なにか?」

「……い、いらないですっ……けど……捨てないでください……」

「わかったよ」


いらないのに捨てないでって……。

天音ちゃんは素直じゃないなぁ。


「……伯斗先輩」

「……ん?」


真剣な表情を浮かべて僕の名を呼ぶ天音ちゃん。


「……私、気遣いの心で彼氏になってなんてもらいたくありません」

「……そっか……」


やっぱり僕の思いは伝わらないんだなぁ……。

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