今日も久遠くんは甘い言葉で私を惑わす。
俺はもう居ても立っても居られなくなって天音の手を思い切り引いた。


けど……。

「ふふふっ、なに俺のもんに触ってんだてめぇ」

「っ……!」

「チッ」


久遠の力が尋常じゃないらしく、天音の手を引いて逃してやることができなかった。


それどころか、怯えている天音が泣き出したのだ。


「……ぅっ……ひっくっ……」

「……天音、大丈夫?」

「らいじょうぶじゃっ……ない……」

「……ごめん、なんでここでそんな可愛い顔すんの」


は……?

コイツ正気か?


自分の大切な愛しい人が、自分に怯えて泣いてるのに、周りに見られたくない独占欲が勝つってどういうことだよ!?

それに、元々泣かせたのはコイツだ。


……久遠が重いことは重々承知だってわかつてたはずだった。

それでも、天音が幸せになるならいいと思ってた……。


でも、もうちがう。


俺は天音を奪う。


そう心に覚悟を決めて、今度は久遠の肩を思い切り蹴り上げた。


そして、久遠の力が和らいだ一瞬を見計らって、天音の身を思い切り引く。


すると無力にも天音は俺の胸にコテッと寄りかかってきた。


「……ぃって……。……天音?」

「……蘭、くん……助けて……」

< 127 / 257 >

この作品をシェア

pagetop