今日も久遠くんは甘い言葉で私を惑わす。
あんだけ人に優しくして、なにか得することがあるものか。

「私は……天使になりたいんだ」

「……は?」

なに言ってんだコイツ。

「あっ!死んじゃいたいとかじゃないよっ……!?」

「んなことわかってる」

「あっ……だから、つまり……優しくなりたいんだ……」

優しく“なりたい”?

我ながら認めたくはないが、十分に、いや行きすぎてるぐらいお人好しだと思った。

「天使って、勝手な偏見かもしれないけど、みんなにとっても優しいイメージがあるの」

「まぁな」

「それで……私、天使に会ったことがあるんだ」

「へー………………は?」

コイツ、なにを言い出すかと思えばなに言ってんだ?

「ダイアモンドみたいなお目目に、金色の髪の毛の、可愛い天使に会ったことがあるの!」

「いつだよ」

「ちっちゃい頃!」

ちっちゃい頃……。

夢かなんかじゃないのか?

「なーんて、おかしいよね」

「ああ、おかしいな。でも、いんじゃないか?」

「えっ?」

「そんな純粋無垢なことで人に優しくできるならすげーと思う」

性に合わない言葉をペラペラと吐き散らかしたことに気がついたのはもう少ししてからだった。

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