HONEYHOLIC(2)運命ウエディング~身代わり見合いの代償は溺愛~
彼女の居る場所は川からそう遠くはなかった。

「大丈夫か?」

雪姫ちゃんが右膝を擦りむいて泣いていた。

「たっちゃん!?」

「怪我したのか…痛むか?」

「うん…あるけない」

「仕方ないな…」

俺は泣いていた雪姫ちゃんを抱っこした。

「さあっー皆の所に帰るぞ…」

「たっちゃん・・・うしろ・・・」

「後ろ??」

振り向くとそこには野生のクマが歩いていた。

足を怪我していた雪姫ちゃんの血の匂いに誘われたのか、クマが俺たちを見ていた。

クマに遭遇したら、死んだふりするのが一番いいと訊いていたが…

死んだふりしている余裕はなかった。


俺は雪姫ちゃんを抱っこして慌てて走り出した。

クマも腹を空かせているのか…猛突進で追いかけて来た。


俺は太い木の根元に空洞を見つけて、慌てて雪姫ちゃんを下ろして押し込んだ。

「…雪姫ちゃん…俺がクマを追い払うから…君は此処で隠れているんだ!」

「たっちゃん!?」

クマを追い払うと言っても、武器がない。

クマが俺たちを見つけてこっちに向かって来た。

クマが最近、出没して畑を荒らすと訊いていたが、まさか自分がクマに遭遇するなんて想像しなかった。

俺は武器代わりに落ちていた木の枝を拾い、クマを雪姫ちゃんから引き離そうと再び走り出した。

「!!?」

俺の走るスピードが落ちたのか、クマの走りが速くなったのかみるみる追いつかれ、鋭い爪が俺の背中を引き裂いた。

俺は本気で死を覚悟した。






< 30 / 155 >

この作品をシェア

pagetop