わたがし
黒いシャツに袖を通しながら、窓の外から聞こえたる子供の笑い声に耳を塞ぎたくなった。
無意識に吐き出した溜息に気づき、飲み込むために姿勢を正した。
定時の集合にいつもの顔ぶれ。
ここはいつもと変わらない、まるで変化を嫌っているかの如くいつも同じ。
つまらないと視線を外へ向ければ。
「もう、顔も見たくないって顔ね」
茶化すような声で、砕左(さいさ)が紅茶をあおる。
人の部屋で何をしているのかと怒ることもいつの日かなくなった。
「いつもと同じ日常がまた始まる。ただそれだけのこと」
つまらないことだと吐き捨てることも、もうなくなった。
そんな反骨心も反発心も無くなるほど、年月を重ねていた。
鬼族ゆえか、年齢のわかりにくい容姿ではあるが、26年になるか。
右人差し指に光る銀色の指輪を見つめ、感傷的になった。
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