わたがし
チリン♪
二人を呼ぶベルが聞こえた。
何においても主人のいいつけが全ての二人はなり終わらぬうちに共に部屋を出た。
支給された黒の革靴のつま先が少し汚れてきたなと思いながら、赤黒い絨毯を速足に進む。
「まるで犬ですね」
卑下した様な嘲笑が返され、同じ気持ちでいるのだと感じた。
呼び鈴がなればどこにいても何をしても優先するのはただ主人だけ。
それはまさに、飼い犬の様だとここ何年も感じていることであった。
この立場を呪う気はない。
ただ変わることのない現実があるだけ。
下された命令に忠実である僕でいること。
それは鬼であることよりも、人の体をとっていることよりも、なによりも大切なこと。
そう教えられてきただけのことであった。